2013年9月26日木曜日

コンラート・ツーゼ「計算する宇宙」その18

 コンピュータ開発の先駆者コンラート・ツーゼによる「宇宙をオートマトンで表してみよう」という意欲作「計算する宇宙」。
 その大詰め,4 章 6 節 "On Probability" の解読速報です。現代物理学に欠かせない確率について,オートマトン理論から考察が展開されていきます。
#今までの節と比べて短めです。



 前節ではオートマトン理論における,次状態の決定についての話でした。
 自然界を現代物理学の観点を取り入れつつオートマトンで記述しようとすると,次状態の決定に確率の要素を取り入れる必要があります。
「このような点において,次状態決定のプロセスは机上の単純な数学的ゲームである。
このような演算は,オートマトンによりこれまでの所うまく行われてきた(モンテカルロ法)。」
とのことで,本書執筆時点ですでに確率を取り入れた,オートマトン的な演算が試みられていたようです。

 モンテカルロ法は総称であり,ここでは具体的な手法例は取り上げられていません。
 以降では,モンテカルロ法に分類されるような手法において,どのように乱数を用いれば良いかという点についての考察が述べられています。
#なお,本節では "chance values" という言葉が用いられています。文脈からどうもこれは乱数を示しているようです。本書は検索してもあまりヒットしないような表現が割りと登場するような気がします...。

「乱数の生成は明白な問題であり,以下に 2 つの方法を示す」
としてそれぞれの方法を述べています。

(a) サイコロを模擬し,互いに独立な数列を生成する。
「このような値は,πなどの無理数の計算から生成することができる。
実際には,このプロセスは厳密に決定されている。
それにも関わらず,我々は擬似乱数について議論する。
このプロセスは乱数を生成するルールが注意深く選ばれた際に完全に満足される。」

サイコロの「模擬」であるため,計算機による乱数のシミュレーション,つまり擬似乱数を使用する方法です。
  擬似乱数の生成はなかなか難しい問題としか知らなかったため,無理数の列から乱数を生成できるという方法はなるほどと思いました。

(b) 自然から乱数生成メカニズムを取り入れる。
「自然は物理法則に従い,真の確率値を提供する。」
「十分に注意深くサイコロが作られた場合,全てのケースにおいて等しい確率が現れる。
これはルーレットなどの全ての運頼みのゲームにおいても同様である。」
「もう一つのケースにおいて,我々は例えばある素材の放射性が厳密に確率法則に従うという事実を頼りとする。確率過程が実際にこれらの原子について決定されるかは重要ではない。なぜならば経験的にどのケースにおいても確率法則は適切に仮定することができるからである。このケースにおいて,計算するオートマトンはある範囲においては確率値を外部の入力値と見なす。

しかしながら,真の確率値はオートマトンを用いて実現することは難しい。」
とのことで,実際の自然界を利用してしまう方法です。
自然界はアナログであるため,これをディジタルであるオートマトンに導入すると,2 章最終節で登場した,ハイブリッドシステムとなりますね。

 次に方法 (a) について再び少し言及がされています。
「(a) において,擬似乱数の生成に用いるアルゴリズムの選択は非常に重大である。
可能な限り互いに不規則であり,最も正規分布に近い,基本的な数字の範囲からのみ値を選ぶことができる。他の排除されない数列と同じぐらい起こりうるとしても,同じ数字の連続や,1, 2, 3 などの同じ組み合わせの繰り返しは排除される。」
偶然に 111・・・ の様な数列が生成されてしまうことすら許さないという,結構厳しいルールですね。

 そして本節最後はこのような記述で締めくくられています。
「もちろん我々は,真の確率法則は物理学のオートマトン理論的観察に受け入れられるかどうかという問いかけをすることができる。
この問いは哲学的なものであり,ここでは答えを述べずに記載するだけに留めておく。」
(b) において真の乱数を導入することについての議論なのか,それとも確率法則をオートマトン理論に導入すること自体についての話なのか。哲学的とまで言っていますから,根本的な問いである後者なのかもしれませんね。


  さて,短めでありましたが本節はこれで終了です。
  オートマトン理論に確率を導入する際,必須となる乱数の生成について主に述べられていました。

  残りあと 1 節と Conclusion です。ラストスパートで解読したいと思います!

0 件のコメント:

コメントを投稿