2013年10月4日金曜日

コンラート・ツーゼ「計算する宇宙」その19


 本書の解読も,いよいよ Conclusion 直前の 4 章 7 節 "Representation of Intensity" に入りました。

 "General considerations" と銘打たれた本章では,オートマトン理論に基づいた物理現象観にまつわる様々な事柄について,考察が試みられてきました。
 1 節のセル・オートマトン,2 節のディジタル粒子,3 節の相対性理論,4 節の情報理論,5 節のオートマトンの遷移,6 節の確率法則。
 それに続く本節では,量の大小をどのように表現するかについて考察が行われます。



「場の強さや,セル・オートマトンの他の数値的な量の表現は特に考察が必要である。
このため,いくつかの基本的な候補をここで考察する。」
3 章 2 節などで,ディジタル粒子が持つなんらかの量の大きさ(抽象化されて議論が行われていたため,どの量についてでもよい)を,矢印の長さで表現していました。
 本節で議論されている「量の表現」はおそらく,これをセル・オートマトンの構造としてどのように実装,実現するかを指しているのだと思います。

  まずアプローチの1つ目。
「Fig.69 は,各格子点が yes, no の論理値で占められた 2 次元格子を示している。これらの値にそれぞれ 0 と 1 を割り当てると,1 の値の分布が場の強さを示すこととなる。」
「オーダーの大きい密度を考慮しなければならない場合,この類の表現はあまり有用でない。
すでに言及したように,静電気力の相互作用と重力の相互作用の強さの比は 10^40 : 1 のオーダーである。
この強さの違いをyes, no の論理値を用いて Fig.69 に対応する3次元空間にて表現するには,1辺が約 10^13 のグリッドで構成されるキューブが必要となる。
この数字は下限に過ぎず,実際には,場の強さがより大きなオーダーで異なることも考えられる。
グリッドの大きさが,物理学者に受け入れられた1辺 10^-13 cm であるとすると,場の強さを表すためには非常に大きな体積の空間が必要であるだろう。」

3 次元なので 1 辺に 10^13 個の区切りを入れると,(10^13)^3 = 10^39 個のグリッドが得られるので
1 つのグリッドに 1 つの論理値を割り当てると,静電気力も重力もだいたいカバーできるダイナミックレンジを得られます。

 ということは,たくさんのグリッドから構成されたキューブが空間を分割できる最小単位となるのだと思います。10^-13 cm が 10^13 個あるので,このキューブは 1 辺が 1 cm となります。
 すなわち,空間中の量は 1 cm ごとにしか記述できないことになります。
 ちょっとこれは大雑把すぎますね。ということでこれはボツ。次のアプローチが紹介されます。

「位取りの原理により,より合理的な方法が提供される。
これは,Fig.69に基づく計算するオートマトンの構成を導くわけではない。
Fig.70 は,近傍のセルにより構成された加算器の,理想的な配置を示しており,これから階層構造が読み取れる。
個々のセルは無数の異なる値と連携する。これは,u0 〜 u6 の伝達プロセスに反映されている。」

1つ目の構成とは全く異なるアプローチのようです。
1つ目のアプローチでは単にセル内のグリッドに値をばら撒いていましたが,この方法では各グリッドが数値の桁を担うことで,同じ面積(体積)でより多くの値を表現できるようになっています。
 2^0 の位を示すグリッド,2^1 の位を示すグリッド,などと階層構造になっており,これは加算器のルールを持ちいることで実現できます。

# number of places は「桁数」って意味なんですね。
「場所の数」だと文脈がいまいちはっきりしないなと思って辞書を引いてなるほど!と思いました。
 その16でも登場していましたので,解読を修正しました。

 そして加算器のルールによって構成されたセル同士が Fig.71 のように相互に結合します。セル内の階層同士の情報伝達は,セル同士の情報伝達とタイミングを揃えて連携すべきであると述べています。
「この原則を1次元や2次元のセル・オートマトンに対して実現することは比較的容易である。
理論的には3次元やさらに高次元のオートマトンについても修正なしで適用できる。」

とのことでこの方法は有望なようです。

 とりあえず方針が固まったところで,この方法において重要な階層構造について考察しています。
「対称的に構成されたセルオートマトンにおいて,階層の順序が場所の占有という形式で導入されるかどうかの問いを提示することができる。
Fig.72にその原則が示されている。例えばひとつのセルは 1 つの加算ステップを含み,複数の桁を受け付けることはできない。
これらは,位取りの原則に従って複数の近傍セルの間で分割される。この種の配置が,占有の性質を持っている事実において,困難さが生じる。この考えが複数次元のオートマトンに適用されると,複雑さが高じる様子を容易に観察することができる。」

ここでセルが複数の桁を受け付けることができないと言い出しているので,混乱します。
 推測ですが,前段落まではあくまでも抽象的なモデルであり,前段落における「セル」は実際のセル・オートマトンのセルが複数集まって構成されたものなのかもしれません。

 ともかく,空間の最小単位が桁の1つであり,加算器の1ステップであり,
その最小単位がいくつか集まって階層構造になったものが,1 つの値を持ちうるユニットを構成します。
 理論的にはいくらでも高い次元においても適用できますが,実際の配置を考えると,高い次元では困難さに直面するようです。

 次にさらに発展させた形式のセル・オートマトンが紹介されています。
「セル・オートマトンは,各セルが Fig.73 に象徴的に示されているような完全な演算システムを含む場合に,明晰な解法を提供する。
Fig.74 に示されているネットワークオートマトンは,Fig.73 に対応するセル・オートマトンのさらなる発展形である。ここでは,それぞれのセルは情報処理のみを担っている。枝分かれの線 B は個々のセルを結合し,情報伝達と,情報の記憶を行っている。
計算機について有効な直列原則に従うと,個々のセルは,一桁の加算ユニットから構成することができる。」

「著者による予備調査で,このタイプのオートマトンは非常に有用であり,特に数値解析的問題の解法と物理プロセスのシミュレーションに有用であることが確認された。より詳細な考察は別の論文において論じられるだろう。」
ここでの「完全な演算システム」は,情報伝達,情報処理,情報の保存を兼ね備えたシステムを指すようです。
 この Fig.73 のシステムは,前段落にでてきたシステムの 2 次元バージョンに過ぎないのか,それともさらに機能が追加されているのか,ちょっとはっきりしません。
 ともかく,ここでの理想形は Fig.74 に示されたシステムのようです。
 枝分かれの線が,情報の保存の役割も果たすというのが意外です。
もしかしたら周期を短めに取り,1 周期では隣接セルに届かないようにして,線上に信号がしばらく留まるようなシステムなのかもしれません。


 さて,これで本節,そして本章の解読の終了です!次はいよいよラストの Conclusion 。最後まで解読頑張ります!

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