2013年8月14日水曜日

コンラート・ツーゼ「計算する宇宙」その11


 ついに全 98 ページ中 49 ページ,半分まで読了しました! この間の記事作成を通じて,ただ読むだけでなく,自分の中である程度消化しないとまとめることができないことがよく分かりました。時間は断然かかりますが,一度アウトプットしておくと内容がずっと頭に残るのを感じています。せっかく読むのだったらこういった方法が良いなと思いました。

 さて,今回は 3 章 2 節 "Two-Dimensional Systems" です。前節の 1 次元空間でのディジタル粒子の振る舞いについての議論を 2 次元空間に拡げていきます。


 ディジタル粒子の振る舞いを考えるにあたって,空間を有限個に区切ること,値を有限個に区切ることの 2 つの区切りによるディジタル化が必要となります。2 次元空間における空間のディジタル化として一番シンプルな方法は,やはり直交座標系のグリッドを用いるやり方とのことです。すなわち,空間を正方形に区切ります。
 次は値のディジタル化です。本節ではまず,非常にシンプルなルールを適用した場合を考察しています。各格子点は 0 もしくは 1 の値のみをとります。そして,単位時間毎に 1 の値は近傍の 4 点に伝達されます。近傍の 4 点からある格子点に届いた値の論理和が,その格子点の次状態の値となります。すなわち,近傍点のうち 1 つでも 1 であれば,その点の次状態は 1 となります。逆に言うと,1 の値を持つ格子点の近傍点は,すべて次の単位時間以降は 1 の値を持つことになります。
 もちろんこのようなルールだと,一定時間経過後には,全ての格子点が 1 になってしまいます。これでは粒子の動きを表現することはできないので,2 つめの,もう少し複雑にしたルールを導入します。


 複雑とはいっても,2 つめも十分シンプルです。このルールのもとでは,それぞれの格子点は 0 以上の整数値を取ります。そして,近傍 4 点の値の和にある定数を掛けた値が,その点の次状態における値となります。
#計算結果が小数になる直前で計算の図示が終わっているため,計算結果に小数を含んだ場合のルールは分かりません。
 Fig.32,33 には,このルールにおいて,定数を 1/4,1/2 とした場合の様子が図示されています。ただ,Fig.32 及び 33 は,一定時間が経った後の最終状態のみを示しています。そのため時間経過に伴う状態変化が少々分かりづらいです。そこで以下に Fig.32 の状態変化を追った図を作りました。











 



 
 まず,座標原点に 256 の値が初期値として与えられます。

 









 そして,次状態に進みます。256 の値の近傍 4 点に,ルールに従った値が伝達します。













 以下同様に,ルールに従って値が外側に伝わっていきます。ツーゼはここで,ピークの値は座標軸に沿って現れることを指摘しています。ここでのピークは最大値ではなく,値の広がりの先端部分を述べているのだと思います。そして,値の区切りが有限であるため,最小値に達したピークは消滅すると述べています。掛ける定数を 1/4 にした Fig.32 では 5 単位時間,1/2 にした Fig.33 では 9 単位時間でピークが消滅しています。一方で,前述した OR を取るルールにおいてはピークは消滅しませんでした。このことと関連してツーゼは,パターンの広がりが収束するかどうか,収束するとしたらどのぐらい早く収束するかが興味深いと述べています。ピークが消滅した時に,パターンが収束したと言えるようです。
 ここまで見たところで,このルールにおいても記述されるのは粒子の移動でなく,波面の広がりなのではと疑問が湧きます。その通りのようで,ツーゼはこのルールのもとでは,ディジタル粒子を構成することはできないと述べています。

再度新しいルールの登場です。

 2 つの準備段階を経て,次のルールはいよいよ前節で登場した 1 次元空間における差分方程式が絡んだルールの,2 次元バージョンとなります。すなわち,粒子は速度と圧力の 2 つのパラメータを持ち,速度の現在の量と圧力の変化量から速度の次状態の量が,圧力の現在の量と速度の変化量から圧力の次状態の量が定まります。1 次元の場合と異なるのは,x 方向の量と y 方向の量が登場することです。そこで状態遷移式は下記のようになります。

$v_x - \Delta p_x \Rightarrow v_x$
$v_y - \Delta p_y \Rightarrow v_y$
$p - (\Delta v_x + \Delta v_y) \Rightarrow p$  

 圧力の次状態を求める際に,x 方向の速度の変化量と y 方向の速度の変化量が統合されます。そのため,粒子の移動形式は前節の 1 次元の場合と異なってきます。
 このルールにより,安定した波面が作れるとのこと。Fig.37 に移動の様子(の概要)が記されています。注目点としてツーゼは,伝達速度は方向により異なると述べています。これは図で示した 2 番目のルールでも同じです。座標軸に平行な方向への移動は,対角線上の移動と比べて速いです。どちらのルールでも,値が直接伝達するのは上下左右の 4 方向のみとしているためですね。
 また,ディジタル化の粗さにより結果がどのように変化するかが興味深いとも述べています。なぜならば,この計算ルールが希薄気体力学や流体力学と関連しているため,これらのシミュレーションをディジタルコンピュータで行う場合の考察が行えるからとのことです。


 本節は以上。次節でより詳しく 2 次元空間でのディジタル粒子の振る舞いを述べるそうです。
 いよいよ後半突入。引き続き解読していきます。


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