2013年8月17日土曜日

コンラート・ツーゼ「計算する宇宙」その12


 いよいよ 3 章読了です!4 節がとても短いため,今回は 3 章の 3 節 "Digital Particles in Two-Dimensional Space" と,4 節 "Concerning Tree-Dimensional Systems" をまとめて解読していきます。本文はこちら


 英文ってつくづく解読という言葉がしっくりきますね。どうしても意味が掴めない文にぶち当たり,その場はしかたなくスルーするも結局その文に立ち返らないとその一帯の意味を掴めないことがあります。前後の文との意味の繋がりで攻めたり,頭のなかを空っぽにして文法構造のみで攻めてみたり。最初は失礼にも「ほんとにこの文は成立してるのか?ただなんとなく英単語ならべてみただけじゃない?」と思ってしまうのですが,きちんと解読できると非常に重要なことを述べていることが分かって驚きます。そういうときにゲームにも近い面白さを感じます。

 さて本節では,前節で積み残した 2 次元空間におけるディジタル粒子の振る舞いの詳細がたくさんの図とともに述べられています。
 本節での議論において,前節に引き続き直交座標系の枠で区切られた 2 次元空間を用います。一方,前節で
粒子の速度 v は x 方向成分,y 方向成分の 2 つの成分を用いて,p は x 方向と y 方向を統合した 1 つの成分で記述していましたが,本節においては p にも 2 つの方向成分を持たせています。これにより v と p に違いが無くなったため,今までのようにこれらを半分位置をずらすことなく,同じ座標に,矢印という形で記述しています。結局のところ,ここから先では v と p に区別を付けず,粒子の持つなんらかの値が移動する様子を記しています。

 まず最初に,逆方向に進行する 2 つの矢印が出会った場合の相互作用を Fig.41 に示しています。出会うタイミングの違いにより,ちょうどぶつかる場合は打ち消し合いが生じ,ちょうどすれ違う場合は互いに干渉を起こさずに通り過ぎます。ここで見るように,矢印同士がどのタイミングでどこで出会うかが相互作用に大きく影響を及ぼします。

 それでは正面衝突でなく,2 つの矢印同士が垂直にぶつかる場合はどうなるのか。ここでは面白いルールを導入しています。Fig.42 のように,ある時刻に 1 つの格子点に 2 つの交差する矢印があった場合,それぞれの向き通りに進みます。次が重要で,次の点に移動し終わると,矢印の向きがさっき交差していた相方と交換されます。下向き矢印が右向き矢印と交差すると,進行は下,進行後の向きは右になります。ちょっと紛らわしいのは,ぶつかった瞬間に向きが変わるのでなく,ぶつかった 1 単位時間後に変わるところです。
 それにしても,本書では色々なルールを導入していますが,このルールはその中でも独特だなと思いました。解析したいものをモデル化する際に,どんどんルールを作って制約を課していきます。しかしこのルールは制約というより,創造的な印象がありますね。思い切ったルールを適用するのは結構勇気が要りますが,重要だなと思いました。


 さて,このルールによって Fig.43 に示されるような安定した,周期 2 $\Delta$ t を持つ粒子が得られます。本来そのまま直進して散り散りなってしまう 2 つの矢印が,方向交換則に基づいた相互作用により,まとまって行動しています。
 このルールの特徴として,Fig.43 でも見られるように,矢印に囲まれた空間(これを本書では"ポケット"と呼んでいます)が現れます。特に Fig.44, 45 においては,矢印がポケットに絡め取られ,移動せずにその場にとどまり続けています。またFig.48 のようにタイミングによって,ポケットのそばを通過する粒子がポケットに取り込まれることもあります。そのため,このルールに従う宇宙があるとするならば,全ての粒子が徐々にポケットに取り込まれてしまい,粒子の動きが全くない世界になってしまいます。ですので,このままだとあまり有用ではありません。


 ここまで用いてきたルールでは,矢印は全て同じ長さを持つとしていました。すなわち,粒子が持つなんらかの量の取り得る値は +, 0, - のみの場合でした(これはコンピュータ内の電子の状態に対応し,3 進数システムが得意とするものでしたね)。
 この値の取り方だけだと限界が見えてきたので,ツーゼは新たなルールを導入します。以降粒子は様々な値を取れるようになります。そしてその値の大きさは,矢印の長さで表されます。同時刻に同じ点に居る矢印の長さは,2 つの長さの和になります(向きが逆なら差)。
 ここで気になるのは 2 つの矢印が交差した場合。その場合は新たなルールに従います。そのルールは,長い矢印が 2 つに分離し,交差した相手と同じ長さの分は今までと同様,進んでから交差した相手と向きを交換します。そして残りの長さの矢印は干渉を起こさず,単独に存在する矢印として振る舞います。この新ルールに従った矢印の移動の様子が Fig.59 に記されています。いつもながらスペースの都合上,本文の図では時間経過がわかりにくくなっているため,以下に図を作成しました。

 数字は矢印の長さです。T0, T1 などは単位時間を表しており,本文のものと対応しています。ここで示した Fig.59 は,大きさの比が 2:5 の矢印同士が交差した場合の例となっています。

 まず最初の状態 T0 です。 


 











 次に T1。T0 において,2 つの矢印が交差していたため,5 の矢印のうち 3 が直進し,残りの 2 が相方と相互作用を起こし方向を交換します。















 次に T2。左下の 2 は単独なのでそのまま直進します。右上で交差している矢印は,ルールに従い振る舞います。すなわち 3 の矢印の内 1 が直進し,残りの 2 が相方と方向を交換します。このとき,相方の下向き 2 の矢印は,右下の単独矢印と合流し,値が加算されて 4 になります。




















 あとはこの繰り返しです。独特なルールですが,矢印の動きがとても理にかなったものになっています。その理由として,出発点における矢印の大きさの比が 5:2 であることに対応して,右に 5, 下に 2 進んだ場所で 1 周期が終了しています。また,Fig.59 に引かれた T0, T1, T2, ... の線からも分かるように,粒子が時刻毎に存在している点を線で結ぶと,それらは全て平行になります(T0 // T1 // T2 // ...)。
 散り散りに分離していきそうに思える矢印が,数個のルールにより整然と移動していくのが印象的です。
 なお本文中では,周期の始まり,すなわち初期状態と同じ矢印の形状になる地点をゼロ位相点と呼んでいます。


 上述の Fig.59 の例では,矢印の伝播方向は初期値の矢印の大きさと対応しており,1 周期は 7 単位時間となっています。一方で,もし単独の矢印が真右に進んだとしたら,5 単位時間後に Fig.59 の矢印と同じ x 座標上に並ぶでしょう。このことから,伝播速度と伝播方向には相互依存性があります。このことを示しているのが Fig.60 です。なお,速度と方向の相互依存性は,前節で提案されていた近傍点の値の和にある値を掛けるモデルでも,生じていました。

 Fig.61 〜 66 にこのルールの元での干渉の興味深い例が記されています。ツーゼが強調しているのは,どういったケースで相互作用が生じ,どういったケースでは生じないかです。
 Fig.61, 62 のように,交差点においてそれぞれの矢印がゼロ位相点となる場合は,必ず相互作用が生じます。ただしこのケースに限らずに,Fig.65, 66 の状況でも相互作用が生じています。では Fig.65, 66 にはどのような特徴があるのでしょうか。ツーゼは,粒子が各時刻ごとに存在する位置を結んだ線,すなわちローマ数字の 1, 2, 3 の線に着目します。A と B の 1, 2, 3 の線の交点を見ると,一直線上に並ぶことが分かります。この直線をここでは時相線 R と呼んでいます。名前がかっこいい!そしてこの時相線 R,こいつが A と B が交わる交差点を通過している場合,相互作用が生じるという法則をツーゼは見出しました。


 そしてツーゼはこの節の締めくくりとして,「これらの例はシンプルかつ原始的だが,多くの示唆を含んでいる」,「これらの例は,ディジタル化の方法が興味深いものであり,ルールを作成することが新たな概念を生み出すことを示している」と述べています。ルール作成が概念に繋がるというのが素晴らしいですね。本節を通じて,独特だけどシンプルなルールによる,粒子の整然とした動きを見た後だととても説得力があります。

 続いて 4 行しか無い 4 節に入ります。ここでは一言,3 章 2 節及び 3 節で作られた概念は 3 次元空間にも適用出来ることを述べています。しかしながら,まだこの時点ではツーゼは研究を完全に終えていなかったため,3 次元空間についてのそれ以上の詳細説明は保留すると述べています。


 長かった 3 章も終わり,本書の約 2/3 を読了することができました。秋の気配が徐々に漂ってくる中,季節が変わる速度に負けないように頑張って解読をしていきます!

0 件のコメント:

コメントを投稿