2013年8月29日木曜日

コンラート・ツーゼ「計算する宇宙」その14


 コンラート・ツーゼの宇宙ディジタル説,「計算する宇宙」解読シリーズ。今回は 4 章 2 節 "Digital Particles and Cell " & 3 節 "On the Theory of Relativity" です。
 図説が多かった前章からうってかわって,本章ではツーゼの知識とアイディアが言葉で示されているので歯ごたえがあります。



 さらっと相対性理論の話が出てくるので気持ちはおっかなびっくり。とはいえ真正面から読み進めると手強い理論でも,実際に解析で使ってみると数行〜数十行程度で記述が終わってこんなもんかとなることが多いです。例えばフーリエ変換とか関数 1 個で済みます。なのでびびらずに取り組もう,どうせコンピュータの中では全てはビット演算と足し算で行われているんだ...,そう言い聞かせながら読み進めました。


 まず,とても短い 2 節から。前節に引き続きセルオートマトンについての考察が示されています。
 セルオートマトン上でのディジタル粒子の移動や拡がりの表現に,ツーゼはこの節から "disturbance" という言葉を使い始めます。「擾乱」というと何か不穏な印象ですが,セルオートマトン上にディジタル粒子によるさざ波が生じるというイメージでしょう。このイメージはセルオートマトンの wiki ページのアニメーションを見るとなるほどと思います。


 そのディジタル粒子のさざ波は,「周期的な変化の影響を受ける異なるパターンを示す。オートマトン理論の基本として,全ての状態は直前の状態から導き出されるが,それにも関わらず全体のパターンはプロセスの中で変動する」とのこと。直前の状態のみを参照しているだけなのに,システム全体があるパターンを周期的に示すのが注目点ということでしょうか。単なるさざ波ではなくて,周期的な状態の移り変わりを提示するディジタル粒子の振る舞い。ツーゼはここで,ディジタル粒子は「自己増殖システム」と考えられると述べています。Fig.59 に見られるように,与えられた粒子のパターンは,ある周期が経った後に近傍のセルにおいて再現されます。自己増殖システムたるゆえんです。

 そして次節の例においては,ディジタル場とディジタル粒子を別々に分けて扱うと宣言しています。おそらくではありますが,ディジタル粒子と,ディジタル粒子が存在する場(これも格子構造によりディジタルに区切られている) を分けて考えることではないかと思います。
 その上で,「現代の場の理論は,特異性と場の特殊型のために,単純な粒子についてさえも説明するのに苦心している」と述べ,「オートマトン理論はこのような説明をディジタル化するのに十分に適している。またこのような説明はオートマトン理論の支配下に置くことができる」としています。さらには「筆者はこのテーマをより深く,他の事にも貢献できるように扱えることを願っている」と付け加えています。前節で格子構造に対する反論をまとめていましたが,やはりツーゼの,自身を持ってオートマトンによる宇宙の記述を進めていこうという姿勢が感じられます。



 さて,続いて 3 節 "On the Theory of Relativity" です。前節で格子構造への反論に関連して挙げられていた,等方性についてここでもう一度考察するようです。曰く「宇宙の等方性の問題を取り扱うにあたって,相対性理論に取り組む必要がある」とのことで,序盤・中盤の章でちょこちょこ顔を出していた相対性理論がついに,ここにきてテーマとして立ち上がってきます。現代物理には欠かすことのできない理論ではありますが,等方性に絡んで出てくるのは意外でした。

 相対性理論に関して,取り分けてローレンツ変換の話がここでのメインテーマとなっています。「特殊相対性理論において非常に重要なローレンツ変換は,数値予測により無限に近似される。それでもなお,相対性理論のモデルをディジタル形式でシミュレートするのは難しい」とツーゼは述べています。

 さて,ここから先が難解です...。相対性理論関係の特別な意味を持つのかなと思ってしらべてみてもヒットしない,そんな単語がちらほら出てきます。以降はこれまで以上に,私の独断と偏見と勘で生まれたローカルスコープな解釈となります。

 「我々の物理実験は,素晴らしい座標系の存在を証明できないことを示している。そして,我々がどの座標系も他のものと同じぐらい有効であると考えることが当然であることを示している。ローレンツ変換はそれらの慣性系間の関係を定式化する」。また,「特殊相対性理論の厳密な解釈は,優れた座標系は存在しないことを結論づける」のように,座標系の優劣の話が始まります。この優劣が何に対してなのかが分かりません。物理現象の記述しやすさとか,正確性のことなのかな。ともかく,現実の物理現象に対する能力において全ての座標系は平等のようです。

 一方,「セルオートマトン形式の宇宙の表現においては,運動に関する優れた座標系を仮定することがほぼ不可避である」としています。ということは,ここでの座標系の優劣は等方性に関係してそうですね。実際の物理現象(の本書執筆時点における実験結果)は等方性を持つが,セルオートマトンに伴う格子構造座標系は等方性が成立しないという文脈の延長線上にありそうです。

 続いて伝達速度の話に移ります。「全ての慣性系における光速の不変性は,ローレンツ変換と関連した物体の収縮のディジタルシミュレーションにより表現される」これはアナログ,ディジタル関係なく元々の相対性理論のお約束ですね。
 「光速と,セルオートマトンの個々のセル間の伝達速度との関係性は,このモデルに由来すべきである。これらは同一である必要はない」そして,「これとは対照的に,セルからセルへの伝達速度は,この伝達で得られた信号の伝播速度よりも速い必要がある」と述べています。絶対的な尺度である光速と,ローカルな関係性である信号の伝達速度は異なるんだよという論旨だと思います。また,ここで述べられている セルの伝達速度 > 信号の伝達速度 の関係性は,3 章 1 節ででてきた,セルの値が更新される単位時間と,粒子の移動速度の関係のことだと思われます。ようするに観測対象の移動速度よりもサンプリングする速度の方が早くないといけないよってことかな。


 続いて相対性理論をディジタルモデルとアナログモデルで扱った場合の違いの話になります。「慣性系の速度が光速に近づくと,ディジタルシミュレーションがより決定的な影響を及ぼす」とのこと。ではどういう影響か。本書は次のように続きます。「高エネルギー粒子において,計算ミスとして特徴づけられるプロセスを我々は思いつくだろう」おそらく高エネルギー粒子 = 光速に近い速度で動く粒子ということでしょう。ディジタルシミュレーションにおいて避ける事ができない計算誤差により,影響がでるようです。ただ,具体的にどの部分に影響がでるかは挙げられていませんでした。

 続いてまた座標の話になります。「ある物理法則は 2 つめの座標系と完全に動揺に,1 つめの座標系において有効である。このプロセスは少なくとも原理的には,望むだけ頻繁に繰り返すことができる」と述べた後に「無限についての全ての概念は極限操作を前提としている」と記述しているので,座標系 A で成り立つ法則は座標系 B でも成り立つ,座標系 B でも成り立つ 法則は 座標系 C でも成り立つ,以下無限に繰り返すことで,全ての座標系で法則は成り立つってことでしょうか。この比較の繰り返しによって,座標系の優劣がないってところに話がまた帰着するのかもしれません。
 最後に「このプロセスは,以降に述べることを考慮して情報理論の性質の観察を適用した場合,わずかな重要性しか持たない 」としてこの段落を締めくくっています。「以降に」は本節ではなさそうなので,現時点ではこの文の意味は分かりません。

  ようやく本節最後の段落です。ここでローレンツ変換を扱うために,「シフト量」というものを導入します。シフト量の定義は,「シフトする場所の数に,与えられたプロセスに参加しているディジタル粒子の周期を乗じたものである」としています。

 例が Fig.67 に示されています。ここでディジタル粒子は距離 P0 〜 P1 に拡がっていること仮定されています。そして粒子が慣性系 x, t に対して静止しているとすると,P0, P1, P2, P3 で囲まれた面積が,1 周期におけるシフト量となるそうです。
 そして粒子が慣性系 x, t に対して動いていると,特殊相対性理論に基づいて,慣性系 x', t' を考えることができます。ディジタル粒子は,慣性系 x', t' に対しては静止しています。ローレンツ変換に相当するこの操作により,シフト量は面積 P0, P1', P2', P3' となります。この面積は元の面積 P0,

P1, P2, P3 と等しいことから,空間座標も時間も変わるローレンツ変換において,不変なものとしてシフト量が重要な位置にあることが分かります。


 実例よりも概念やアイディアの話が多かったため,なんだか長ったらしくなってしまいました...。座標系や座標系の移動速度,そこからローレンツ変換が出てきて盛り沢山な内容でした。
 さらに本文の長い次節ではもうちょっと要約しようかなと考えています。それでは引き続き解読していきます!

 

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 セルオートマトンのアニメーションを見ていて,ふと電脳コイル 12 話に出てくる小型生命体の話を思い出しました。その生命体がシミュレーションゲームの様に文明を築いていく様子がとても可愛らしくて,とても印象に残っています。

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