2013年7月16日火曜日

コンラート・ツーゼ 「計算する宇宙」その2


「我々が住むこの宇宙自体が計算機上で動くソフトウェアなのだ」
そんなコンラート・ツーゼの著書「計算する宇宙」の続きです。

早速,Chapter1のIntroductionまでを読んでみました。



まえがきに
「この研究は従来のアプローチの枠の外側にあるため,出版するのに苦労しました...」
との旨が書いてありました。苦労したんだ...という思いとともに,ツーゼの本気が感じられてなんだか嬉しくなりました。既存の枠にとらわれない研究こそ,本当の勉強だと思います。


ツーゼがここで述べているのは,
「近年,計算機によるデータ処理のお陰で,物理学者が数学手法を使いやすくなり,物理学と数学の関係が緊密になってきている。」

そうですね。

何かの事象を研究・分析をする際には,それをまず数式化(モデル化)します。次にその数式に基づいたプログラムを書き,計算機でシミュレーションを行います。

望ましい結果が手に入ったら,パラメータを増やすなどをして,より現実に則した振舞いをができるようにモデルを改良します。

モデル作成→検証→モデル改良→検証 のループにより,モデルは高度になっていきます。こうして物理学者は数学とデータ処理を使わざるを得ないのです。

「しかしながら,計算機によるデータ処理は単に物理学と数学の橋渡しをするだけのものなのだろうか。あるいはデータ処理それ自体が物理理論の源泉たりうるとしたら...。」

この発想がとても面白いですね。
SF作家の発想を失わない科学者はとても素敵です。


この提唱について議論していくにあたって,ツーゼはオートマトン理論を使うようです。

オートマトンとは,ある入力に対して機械はこう振舞いますよ,という対応関係を記したものです。

それ自体が「機械」と呼ばれるのですが,非常に抽象化されているので,「機械の振舞いの設計図」と思ったほうが腑に落ちるかもしれません。

このオートマトンの設計において重要なのが,記号をルールに則ってこちゃこちゃといじくりまわす,形式的数学です。

形式的数学は,人工知能のスペシャリストが書いた名著「ゲーデル,エッシャー,バッハ」に詳しいです。ただ,非常に面白い本ではあるのですが,記号操作は取っ付きにくいため,形式的数学の参考書の例題を解いてからでないと,理解が難しい箇所があるかと思います。

ちなみに,「ゲーデル,エッシャー,バッハ」の著者,ホフスタッターさんは,前回の記事に登場したThe User Illusionの(英語版の)表紙に,推薦コメントを寄せています。発見した時,いろんな思考の繋がりが感じられて嬉しかったです。


さて,序論において,オートマトンとともにツーゼがその名を挙げている概念が「サイバネティックス」です。

ロバート・ウィーナーが提唱したこの概念は,生物学,社会学,そして心理学をも制御と通信の考え方で扱おうというものです。

特に生物学に関しては,ニューロンの振舞いが解明され,さらにはこれを模擬したニューラルネットワークというモデルが組まれ,実社会で制御の目的でも使用されているという状況になっているため,現在においてはとても当たり前になっている考え方です。

 しかし,ウィーナーが「サイバネティックス」を出版したのが1948年,ツーゼが「計算する宇宙」を出版したのが1967年で,そのころにはまだ,十分な工学的・生物学的な裏付けがなかったようです。

科学の様々な分野の橋渡しをする「サイバネティックス」に対して,ツーゼは「まだ広く認められてはいないが,非常に実り多い概念である」とIntrodunctionに記しています。
そして,「まだこの概念は発展途上である」とも。「ならば自分が橋渡しをしよう!」という意気込みが伺えます。


序論だけでも,色々なビッグネームの野心的な著書を連想する本著です。
引き続き読んでいきたいと思います。

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