2013年7月31日水曜日

コンラート・ツーゼ「計算する宇宙」その8


ようやく本書の全体の1/4に到達しました!

計算する宇宙 2章6節:Differential Equations and Difference Equations, Digitalization

の勉強報告です。



3節では力学,4節では電磁気学,5節では重力について,物理現象が微分方程式でどのように記述されるかが論じられていました。

それらを承けて本節は,ディジタルオートマトン(=ディジタルコンピュータ)を道具として用いた場合,微分方程式をどのように扱えばよいのかが述べられています。

もちろん,第2節で述べられていたように,数学的なモデルを完全に表現することができるのは,アナログオートマトン(=アナログコンピュータ)です。

しかしながら,
アナログコンピュータには,偏微分方程式を特定の状況の下でないと解けないなどの,能力の限界がある。
とのことです。
詳しくここで述べられていませんが,外乱に弱い以外に短所があるんですね。

そのため,やっぱりディジタルオートマトンを何とか使っていこうという流れになるようです。


さて,本来微分方程式は,無限の濃度を持つ場における,無限の精度の値を記述対象としています。

そのため,飛び飛びに点在する,有限精度の値しか扱えないディジタルオートマトンで微分方程式を処理するためには,何らかの工夫が必要になります。

そこで登場するのが差分方程式です。

微分方程式が,
(微分を含む式) = 何か
という形であるのに対し,差分方程式は
(引き算を含む式) = 何か
という形になります。

単なる引き算なら離散値でも行うことができます!
もともと微分は,これ以上なく近い2点の引き算であるため,引き算(=差分)に変換しやすいです。

ではどのように変換するかというと,
(1) dx を ⊿x にする
#原文中では逆になっています。
(2)振幅値の刻み幅を広げる


すなわち
(1)は時間もしくは座標を一定間隔で抽出するサンプリング,
(2)は1つ1つのサンプルが持つ振幅値の,分解能を下げる量子化ですね。
#アナログ信号は,無限に狭い間隔でサンプルを持ち,無限階調の分解能を持っています。

また,分解能について,
それぞれの値の変化量に対して,分解能は十分に小さく(高く)なければならない
と述べています。
画像データを例に挙げると,変化量が大きい代表例である市松模様は,0と1の1ビットで記述できますが,他の画像だったら少なくとも 256 ビットは無いとツラいですね。
ビット数が向上するにつれて分解能は小さく(高く)なっていきます。


そして,
量子化は,計算の数値安定性に大きく影響をおよぼすだろう
と述べています。


また,
量子化により,2進数や3進数により構成される変数は制限を受ける
とも述べています。


制限を受けることは前述の通りですが,ここでツーゼは唐突に基数の話を持ち出してきます。
ディジタルコンピュータである以上は,何らかの基数を元にしてシステムが構成されます。

ここでツーゼは興味深いことを述べています。
3進数によるシステムは優れている。 
なぜならば,
 

  • 小数の切り上げや切り下げが容易である。
  •  場を,近傍6点に分割する際に必要な,6による割り算を容易に実行できる。
  •  3進数の3状態それぞれに,+1,0,-1を付与することで,電子の +e,0,-e の状態と対応付けることができる。

上2つはいまいちピンと来ませんでしたが,3つ目の理由はなるほどと思いました。
コンピュータの実際の動作を担っている電子の状態と,システムのモデルの最小単位を結びつけることはとても妥当性があるなと思いました。
#負を表すには2進数だと少なくとも2ビット要ります。

この記述で,情報理論の本に載っていた,「エントロピーの観点から考えると,コンピュータに最適なのは何進数か」という話を思い出しました。

「n 進数の k 桁の数は,何個の値を表せるのか」からスタートします。
#例えば 2 進数 1 桁の数は,2個の値を表せます。
ここで n*k = 一定 とした場合に,表すことのできる値の個数を最大にする n は何か,という問題が立てられます。

おぼろげな記憶で,結局 2 進数が最適という結果だったようなと思っていましたが,今読み返してびっくり。
答えの n は,n = 2.718...(ネイピア数)で,2 よりも 3 の方が近いのです。

あまりにも 2 進数に慣れ親しんでいるために抵抗感がありますが,実は 3 進数ってすごいんですね。


さて,話を本文に戻しましょう。

今までは量子化についての話でしたが,次は空間におけるサンプリングの話が述べられています。

最も簡単なサンプリング方法は,グリッド(枠)を設けることが挙げられる。
直行する(直方体の)グリッド以外にも,三角形や五角形グリッドも使おうと思えば使える。


この 2 つは「確かに」といったところ。

これに続けて,
もし計算の中で,速度と濃度というような異なる種類の値が生じた場合,それらを同じグリッド内に配置する必要はない。
空間ベクトルであっても,3つの要素を配置する必要はない。
さらには,ディジタル空間の構成が,ユークリッド空間の法則に沿う必要はない。

とガンガン話を進めていきます。
ちょっと難解です。
多分,要するに一番下の記述が大事で,「ディジタル空間はディジタル空間,アナログ空間はアナログ空間」ってことで分けて考えようってことかなと思っています。


さて次回は 2 章 の最後にして最長の 7 節です。
頑張って解読します!

ーーーー

なぜか本棚に情報理論の本が,指定された教科書以外にも 2 種類あります。
よっぽど情報理論が好きだったのかよっぽど授業が...。

さて,この 2 冊の両方共名著です。
左側の方は,渋い文体で骨太な解説を進めていきます。
本記事で取り上げた,エントロピーから見た 3 進数最適説の話が収録されているのも本書です。

一方の右側は,ですます調で,コーヒーブレイク欄を挟みつつ,分かりやすさを心掛けた解説が繰り広げられています。巻末の演習問題が非常に充実していて,なおかつ身近な事柄を題材にしており,とても工夫が伝わってきます。

エントロピーを勉強したい!とかベイズさん大好き!って人は是非。 



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